忙しいのに残らない、その理由
毎日予約が埋まっていて、休む間もないのに、月末の通帳を見ると思ったほど残っていない。こういうとき、目が行きがちなのは売上です。先月よりいくつか来院が増えた、今月は売上が伸びた、と入りの数字を追います。ただ、入りを見ても、残るかどうかは分かりません。
手元に残るのは、売上そのものではなく、そこから出ていくお金を引いた残りだからです。来院が増えれば、消耗品も、人手も、ときには広告も増えます。家賃のように、来院に関わらず毎月決まって出ていくお金もあります。売上が増えても、出ていくお金が同じだけ増えていれば、残りはほとんど変わりません。だから、入りと出を分けて、残りを見ます。順に確かめます。
利益=売上−(変動費+固定費)
残るお金、つまり利益は、売上から出ていくお金を引いた残りです。出ていくお金は、性格の違う二つに分けて見ると分かりやすくなります。来院数と一緒に増える変動費と、来院数に関わらずかかる固定費です。
変動費は、来院や施術が増えると、それに合わせて増えるお金です。消耗品や、物販を置いているならその仕入れなどが当たります。固定費は、来院が多くても少なくても、毎月決まってかかるお金です。家賃、正社員の給料、機器のリース料、毎月のシステム利用料などです。利益は、売上からこの変動費と固定費の両方を引いた残りになります。だから、利益を見るときは、この三つ、売上・変動費・固定費を分けて並べます。一つの「経費」とまとめてしまうと、どこを動かせるかが見えなくなります。
固定費が重い、という構造
整骨院は、固定費の割合が大きくなりやすい商売です。施術をする場所が要るので家賃がかかり、人を雇えば給料がかかり、機器のリースや毎月のシステム代も乗ります。これらは、その月の来院が少なくても、決まって出ていきます。
固定費が重いということは、売上がその固定費を超えるまで、残りが出にくいということです。逆に、固定費を超えてからは、増えた売上のうち変動費を引いた分が残りに乗りやすくなります。ここで大事なのは、「忙しさ」と「残り」が同じではないことです。予約が埋まっていても、その売上が固定費を超えていなければ、残りは薄いままです。だから、自院の固定費が毎月いくらで、売上がそれをどれだけ超えているかを見ます。固定費を一度きちんと数えること自体が、最初の一歩になります。
動かせる四つの場所
残りを増やすために動かせる場所は、大きく四つです。それぞれが、利益のどの部分に効くかが違います。
| 動かせる場所 | 効くところ | 見るときの注意 |
|---|---|---|
| 客単価 | 一回あたりの売上 | 上げると来院が減ることがある。減り方も合わせて見る |
| 来院回数 | 売上の総量 | 回数を増やすと人手や消耗品(変動費)も増えやすい |
| 固定費 | 出ていくお金 | 家賃や人の使い方。下げ過ぎは施術の質や働き方に響く |
| 保険と自費の構成 | 単価と請求の中身 | 比率で単価が変わる。請求や制度の扱いは別に確かめる |
四つは独立しておらず、一つを動かすと他に影響します。だから一度に全部を変えず、一つずつ動かして数字を見ます。
よく語られるのは、値上げや自費メニューを増やす話です。これらは客単価や構成を動かすので、効く場所ではあります。ただ、単価を上げて来院が減れば売上は伸びませんし、自費メニューに人手や材料がかかれば、その分は変動費として残りを削ります。入りを増やす二つ(客単価・来院回数)だけでなく、出を減らす固定費と、稼働の埋まり方も合わせて見ます。値上げと自費は選択肢の一部であって、そこだけで残りが決まるわけではありません。
自院の数字を、毎月比べる
動かした結果が出たかどうかは、数字で確かめます。ここで当てにするのは、他院の平均値ではなく、自院の数字です。利益率の平均がいくつ、という話を聞くことはありますが、保険と自費の比率、人を雇っているか、家賃の重さ、物販の有無で中身は大きく変わり、よその平均を自院に当てはめても判断材料になりにくいです。
見るのは、毎月の売上・変動費・固定費・残りの四つを並べ、前の月や、前の年の同じ月と比べることです。先月より残りが増えたか、去年の同じ月と比べてどうか。一つ施策を動かしたら、その翌月の数字がどう動いたかを見ます。比べる相手を「自院の過去」に固定すると、季節の波や自院の事情が入った上で、上がったか下がったかが分かります。数字の作り方や、税の申告にかかわる判断は、税理士に確認します。
先にやること/まだやらないこと
利益の残し方は、順番があります。構造を見える形にするのが先で、施策はその後です。
先にやる
- 毎月の数字を、売上・変動費・固定費・残りの四つに分けて並べる。一つの「経費」でまとめない。
- 固定費が毎月いくらかを数え、売上がそれを超えているかを見る。
- 前の月・前の年の同じ月と比べて、残りが増えたか減ったかを確かめる。
まだやらない
- 数字を分けて見る前に、いきなり値上げや自費メニューから手をつけること。
- 他院の平均利益率を、自院の目標にそのまま当てはめること。
- 一度に複数の施策を同時に動かすこと。どれが効いたか分からなくなります。
- 税や申告にかかわる判断を、自分の解釈だけで進めること。税理士に確認します。
残るお金は、売上の大きさだけでは決まりません。売上から変動費と固定費を引いた残りで決まり、整骨院は固定費が重くなりやすい構造です。まず数字を四つに分けて並べ、固定費を数え、自院の過去と比べる。動かすのは客単価・来院回数・固定費・保険と自費の構成で、一つ動かして一つ見ます。値上げや自費は選択肢の一部です。数字を見える形にすることから始めれば、どこで残すかが見えてきます。どの数字を継続して見るかは、関連記事で詳しく扱います。
よくある質問
出典
- 厚生労働省「衛生行政報告例」(柔道整復の施術所数。有資格者と施術所が増え、競争が背景にあること) mhlw.go.jp/toukei/list/36-19.html (2026年6月確認)
- 中小企業庁(小規模事業者の経営・財務に関する情報。利益と費用の考え方の参考) chusho.meti.go.jp (2026年6月確認)
- 国税庁「個人事業者の方の税金」(事業所得の収入・必要経費の扱い。税の判断は税理士・国税庁に確認) nta.go.jp (2026年6月確認)
本記事は、利益構造の見方を整理したものです。利益率や原価率の具体的な数値は、保険と自費の比率や規模、家賃の重さで大きく変わるため、特定の率や金額をお出ししていません。自院の数字を継続して見ることをおすすめします。税や申告にかかわる個別の判断は、税理士や国税庁に確認してください。