人通りの多さだけでは、決められない
立地を探すと、人通りの多い駅前や大通りに目が行きます。確かに、通りがかりに看板を見て来る患者はいます。ただ、人通りが多い場所は家賃も高く、その通行量がそのまま自分の患者になるとはかぎりません。通勤で急ぐ人ばかりの駅前で、じっくり通う施術の患者が見つかるとはかぎらない、ということです。
だから、人通りは一つの目安として見て、決め手を分けて考えます。見るのは四つです。来てほしい患者がその場所にいるか、その人たちが通いやすいか、近くに競合がいるか、家賃と売上の見込みが釣り合うか。この四つを、人通りと合わせて見ます。順に確かめます。
商圏を見る 誰が、いつ来るか
まず見るのは商圏です。商圏とは、患者が通ってくる範囲のことです。同じ「人がいる場所」でも、住宅地、職場の多い地域、高齢者の多い地域で、来る層と来る時間が変わります。ここを取り違えると、来てほしい患者と地域の人がずれます。
住宅地なら、主婦や高齢者、子どもが昼の時間に来やすくなります。職場やオフィスの多い地域なら、働く人が仕事帰りの夜や昼休みに来ます。高齢者の多い地域なら、慢性の不調で長く通う患者が中心になります。自分が診たい患者と、得意な施術の中身に、その地域の人が合うかを見ます。地域の人口や年齢の構成は、市区町村が公表する統計で確かめられます。
通いやすさ 駐車場と駅からの距離
来てほしい患者がいる地域でも、通いにくければ続きません。接骨院は一度で終わらず、何度か通う患者が多いので、通いやすさは来院の決め手になります。見るのは、車で来るか、歩きや電車で来るかです。
車で通う人が多い地域なら、駐車場の有無と停めやすさが効きます。台数が足りない、道が狭くて停めにくいと、それだけで通うのをやめられます。歩きや電車の地域なら、駅やバス停からの距離、坂や段差の有無を見ます。とくに高齢者が多い地域では、入口までの段差や階段が通院のさまたげになります。物件を見るときは、自分が患者になったつもりで、家から院までの道のりを実際にたどってみます。
近くの競合を、どう見るか
次に、近くの競合を見ます。歩ける範囲にいくつ接骨院があるか、近くにどんな施術所があるかを、地図と現地で確かめます。ただ、競合が多い場所を一律に避ける必要はありません。患者がいるから店が集まる、という面もあるからです。
見るのは数より中身です。近くの院が何を強みにしているか、どんな患者が通っているかを見て、自分の強みとずれていれば、同じ地域でも住み分けられます。逆に、強みが似た院がすぐ近くにあると、価格や待ち時間の競い合いになりがちです。自分が診たい患者を、近くの院がすでに十分に診ているかどうかで判断します。
家賃と売上の見込みを、釣り合わせる
立地の最後は、お金です。良い立地ほど家賃は高く、家賃は毎月かかり続けます。ここで気をつけたいのは、「家賃は売上の何割まで」といった決まった割合をうのみにしないことです。家賃の重さは、立地・規模・施術の単価・1日に診られる人数で変わるからです。
確かめ方は、売上の見込みから逆算します。その立地で来そうな患者数と施術の単価から、月の売上を低めに見積もります。そこから家賃や人件費、機器のお金を引いて、手元に残るかを見ます。家賃が高い立地は通行量も多いので、その通行量が自分の患者につながるかで、高い家賃に見合うかを判断します。資金の調達や返済を含めた見立ては、日本政策金融公庫などの公的な窓口にも相談します。開業資金の内訳や調達の考え方は、開業全体の記事で扱います。
契約の前にやること、まだやらないこと
気になる物件が出ても、すぐ契約に進みません。施術所には、施術室の広さや換気、消毒の設備などについて、柔道整復師法の施行規則に基準があり、保健所が確認します。契約してから基準に足りないと分かると、追加の工事費がかかったり、開設の届出が通らなかったりします。だから、契約の前に確かめる順番があります。
先にやる
- 来てほしい患者を決め、その人が多い地域か、商圏を統計と現地で確かめる。
- 自分が患者になったつもりで、駐車場や駅からの通いやすさを実際にたどる。
- 気になる物件は、契約の前に管轄の保健所へ図面を持って事前相談し、構造設備の基準を満たせるかを確かめる。
- 来そうな患者数と単価から売上を低めに見積もり、家賃と釣り合うかを逆算する。
まだやらない
- 人通りの多さや家賃の安さだけで、物件を契約すること。
- 保健所への事前相談をせずに、内装の工事を始めること。とくに居抜きでも基準は別に確かめる。
- 「家賃は売上の何割」という一般の数字だけを当てにして、お金の見立てを省くこと。
立地は、人通りという一つの数字で決めず、来てほしい患者・通いやすさ・競合・家賃と売上の釣り合いで見ます。そして、気になる物件は契約の前に保健所へ事前相談する。この順で動けば、契約してからの後戻りと、来てほしい患者とのずれを防げます。届出の段取りや資金の内訳は、開業全体の記事で扱います。
よくある質問
出典
- 柔道整復師法(昭和45年法律第19号)。施術所の構造設備の基準・施術所の開設届(第19条=開設後10日以内に施術所所在地の都道府県知事へ届出。窓口は保健所) laws.e-gov.go.jp/law/345AC1000000019 (2026年6月確認)
- 厚生労働省(施術所の開設・構造設備等に関する所管。手続きや基準の確認は管轄の保健所) mhlw.go.jp (2026年6月確認)
- 日本政策金融公庫(政府系金融機関・新規開業資金。家賃や設備を含む資金計画・調達の相談) jfc.go.jp (2026年6月確認)
本記事は、開業の立地を選ぶときの見方を整理したものです。構造設備の基準や届出の窓口・期限、資金の要件は変わることがあります。物件ごとに基準を満たせるかは、契約の前に管轄の保健所へ図面を持って確認してください。家賃や売上の見込み、資金計画は、立地・規模・条件で変わるため特定の金額や割合を保証するものではなく、日本政策金融公庫や金融機関にも相談してください。