EMSを入れる前に確かめる三つ
EMSは、体に電気の刺激を与えて筋肉を動かす機器です。寝た姿勢でも体を動かせるため、自分で運動するのが難しい人にも使えるとして、自費メニューに取り入れる整骨院が増えています。近隣が入れていると、うちもと思いがちです。ただ、勢いで導入すると、二つの理由でつまずきます。投資の重さと、効能の打ち出しの制限です。
だから、入れる前に三つを確かめます。数十万円の機器を何回の利用で回収できるかの計算。その機器が医療機器にあたるかどうか。そして、効果をどこまで言えるか。この三つがそろって初めて、入れる判断ができます。順に見ます。
まず回収計算 数十万を何回で回収するか
最初は、お金の計算です。EMS機器は、1台で数十万円かかることがあります。これを、自費の利用で何回ぶん使えば回収できるかを、先に出します。考え方は単純です。
| 出すもの | 計算の例 |
|---|---|
| 機器の価格 | 30万円 |
| 1回あたりの自費料金 | 1,000円 |
| 回収に必要な利用回数(価格 ÷ 1回料金) | 300回 |
| 月の利用回数(利用者 × 回数) | 10人 × 月4回 = 40回 |
| 回収までの期間(必要回数 ÷ 月の回数) | 約7.5か月 |
数字は計算のしかたを示す例です。機器の価格・料金・利用人数に自院の値を入れて出します(2026年6月確認)。
例では約7.5か月ですが、月の利用が半分なら倍の期間がかかります。場所代や電気代も乗ります。問題は、導入前に月40回の利用が立つかどうかが読めないことです。読めないまま入れると、回収できずに負担だけが残ります。だから、手技の自費で患者数と回転が見えてから、機器の投資を判断します。
その機器は医療機器か 販売元に確認
次に、機器の種類です。EMS機器には、医療機器にあたるものと、一般向けのものがあります。ここを取り違えると、できないことをやってしまいます。
医療機器であれば、国の承認や認証があり、表示できる内容や使い方が決まっています。一般向けの機器で、治療の効果を見込んだ使い方や表示をすることはできません。導入前に、販売元やメーカーに「これは医療機器か」「何を表示してよいか」を確認します。あいまいなまま、効果をうたって使うのが、いちばん危ない入り方です。
「痩せる」「筋力アップ」はうたえない
三つめが、効能の打ち出しです。ここがいちばんの落とし穴です。「これで痩せる」「筋力が上がる」「インナーマッスルが鍛えられる」といった効果を、裏づけなく断定して打ち出すと、景品表示法の優良誤認にあたるおそれがあります。
これは、言葉の上の注意ではありません。実際に、消費者庁はEMS機器の販売事業者に対し、痩身などの効果表示が優良誤認にあたるとして、措置命令を出した例があります。加えて、柔道整復師法の広告の制限でも効能・効果はうたえず、機器が医療機器なら、医薬品医療機器等法の広告規制もかかります。三重に制限がかかると考えておきます。うたえるのは、受けられる内容や時間、料金などの事実です。
入れるなら、どう受け止めるか
回収の計算が立ち、機器のルールを確かめ、効能をうたわない。この三つを満たせるなら、EMSを入れる判断ができます。入れたあとの使い方も、効能でなく事実で進めます。
EMSを使うかどうかは、効果で釣るのではなく、いまの患者の続けたい目的に合うかで提案します。自分で運動するのが難しい、続けて体を動かす習慣をつくりたい、という人に、選択肢の一つとして示す。新しい患者を集めるより、すでに通っている患者の延長で使うほうが、利用回数も読みやすく、回収も無理がありません。機器は、集客の目玉ではなく、続ける人の道具として置きます。
今週やること
EMSの導入を考えるなら、勢いの前に、計算と確認を一つずつ進めます。
今週やる(導入を考えるなら)
- 機器の価格・自費料金・見込みの利用人数から、回収にかかる期間を計算する。
- 販売元に、その機器が医療機器か、何を表示してよいかを確認する。
- 自院の看板・ホームページに「痩せる」「筋力アップ」などの効能が出ていないか点検する。
まだやらない
- 回収計算をしないままの即決。月の利用が読めないうちは入れない。
- 「痩せる」「筋力が上がる」と効能を断定した打ち出し。
- 医療機器かどうかを確かめないままの、効果をうたう使い方。
EMSは、うまく回れば自費の柱になりますが、回収と効能の二つで踏み外しやすい投資です。数十万円を何回で回収できるかを先に出し、機器のルールを確かめ、効能でなく事実で受け止める。この順番を守れば、損失も規制も避けられます。最初の自費メニューを何にするか、単価をどう決めるかは、関連記事にまとめています。
よくある質問
出典
- 消費者庁「EMS機器の販売事業者に対する景品表示法に基づく措置命令」(痩身等の効果表示が優良誤認(景品表示法第5条第1号)にあたるとして措置命令) caa.go.jp/notice/entry/019482/ (2026年6月確認)
- 厚生労働省「あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師及び柔道整復師等の広告に関するガイドライン」(令和7年2月。効能・効果や「専門」をうたう広告は不可、景品表示法所管課室と連携) mhlw.go.jp/content/10800000/001412682.pdf (2026年6月確認)
- 厚生労働省「医薬品等の広告規制について」(医療機器の効能・効果等に関する虚偽・誇大広告の禁止=医薬品医療機器等法第66条等) mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/koukokukisei/ (2026年6月確認)
EMS機器の分類や表示できる内容は、機器ごとに異なります。導入や表示の判断は、販売元・メーカー、厚生労働省・消費者庁の最新情報、所属団体にも確認してください。本記事は導入を判断するときの考え方をまとめたものです。