なぜ今、自費メニューが要るのか
自費を考える前に、数字で立ち位置を確かめます。柔道整復療養費は、平成25年度の3,855億円から令和3年度の2,867億円へ、約26%減りました。一方で、柔道整復の施術所は令和4年度末で50,919か所と、増え続けています。療養費という売り場が細るなかで店だけが増えているので、1院あたりの保険収入は確実に減っていきます。
細った分を保険で補うのは、ほぼできません。保険の単価は国が決めていて、料金改定があっても上げ幅は小幅です。直近の令和8年度の改定案でも、改定率は+0.60%にとどまります。自分の判断で売上を動かせる場所は、保険の外、つまり自費しか残っていません。だからこそ、何を自費にするかの最初の選択が効いてきます。
最初の一つは「いま来ている患者の延長」から
自費を始めるとき、つい「新しい患者をどう集めるか」を先に考えてしまいます。順番が逆です。自費の本当の壁は集客ではなく、いま来ている患者に保険外のお金を払ってもらえるか、にあります。すでに信頼のある患者へ提案するほうが、ゼロから新規を集めるより早く、費用もかかりません。
具体的には、慢性的な肩や腰で通っていて、保険の対象から外れていく患者を思い浮かべます。痛みが落ち着いたあとの再発予防や、姿勢・体の使い方の調整は、保険の対象にはなりません。そこを保険外の継続施術として受け止めるのが、最初の自費メニューになります。これなら新しい機器も広い場所も要らず、いまの技術のまま今日から始められます。
自費メニューの型と、向き不向き
自費メニューにはいくつかの型があり、必要な投資と向く院が違います。最初の一つを選ぶときは、初期投資の軽いものから順に見ます。
| 型 | 初期投資 | 向く院・始めどき |
|---|---|---|
| 手技の自費 (保険外の継続施術) | ほぼ0 | どの院でも最初の一歩。いまの患者の延長で始められる。効能ではなく内容と時間で案内する。 |
| 骨盤矯正 (産後・体の調整) | 低〜中 | 近くに産科や若い世代が多い院。安全への配慮や医療機関との関係を踏まえて組む。 |
| EMSなどの機器 (運動・トレーニング系) | 高 | 患者数と回転がすでにある院。1台数十万円かかるため、回収を計算してから。 |
| 回数券・月額制 | 0(設計が要る) | 継続を作りたい院。前もって受け取るお金の扱いと、解約時の対応を先に決める。 |
初期投資の目安は型の一般的な傾向です。実際の費用は機器の機種や院の規模で変わります(2026年6月確認)。
上から順に、軽いものほど失敗しても痛手が小さく、引き返せます。最初の一つは手技の自費に置き、効果が見えたら次に骨盤矯正や機器へ広げる、という順番が安全です。いちばん下の回数券は、お金の管理と解約の決まりを整えてから入れます。
いくらに、どう値付けするか
料金は、施術にかかった材料の原価ではなく、使う時間で考えます。1回の自費施術に何分かけるかを出し、その時間あたりで院として成り立つ単価から逆算します。30分の施術なら、その30分で保険の患者を診た場合といくら差がつくかが判断の軸です。
具体的な金額は、家賃や人件費によって院ごとに変わるため、ここで「○円が正解」とは言えません。一つだけ目安を置くなら、同じ時間で保険の施術をしたときの単価を、自費がはっきり上回ることです。下回るなら、その自費メニューは時間を奪うだけになります。安く設定しすぎて後から上げるのは難しいので、最初は強気の側から始めて、来院の反応で調整します。
自費でも、広告の制限は同じ
自費メニューを始めると、つい「骨盤矯正専門」「肩こりが治る」と打ち出したくなります。ここに落とし穴があります。柔道整復師法では、施術所や柔道整復の業務について広告できる事項が、法律で項目を限って定められています。これは保険の施術か自費の施術かを問いません。自費メニューも院の施術なので、同じ制限がかかります。
つまり、症状名や「専門」「治る」「効く」「根本治療」といった効能・効果の表示は、自費であっても広告に出せません。違反には罰金の定めがあります。看板やチラシだけでなく、ホームページの扱いも国が見直しを議論している途中なので、効能や誇大な表現は避けておくのが安全です。効能で目を引くのではなく、受けられる内容、所要時間、料金の掲示といった事実で案内します。広告で何が出せて何が出せないかは、集客側の記事にまとめています。
今週やること、まだやらないこと
制度や型の全体像より、自分の院の手元に落とすほうが先です。今週やることと、まだやらないことを分けます。
今週やる
- いま継続して来ている患者を思い浮かべ、保険の対象から外れたあとも続けたい人が何人いるかを数える。
- その人たちに出せる、設備の要らない手技の自費メニューを一つ決める。
- 施術にかかる時間から単価を出し、有償・無償の別を含めた料金の掲示を整える。
まだやらない
- EMSなど数十万円の機器の即決。患者数と回転が見えてからにする。
- 「○○専門」「治る」を掲げた広告。法律で出せない表示にあたる。
- 新しい患者を集めるための先行投資。目の前の患者で立ち上げるのが先。
保険が細る分を、自費で少しずつ受け止め直していきます。最初から大きく投資せず、いまの患者と技術で始められる一つに絞れば、外しても引き返せます。値付けや患者への切り出し方、機器の導入判断は、それぞれ手元が固まってから詰めれば間に合います。料金や広告の細かな可否は、所属団体にも確認しながら進めてください。
よくある質問
出典
- 厚生労働省「柔道整復、はり・きゅう、マッサージ、治療用装具に係る療養費の推移(推計)」(柔道整復療養費は平成25年度3,855億円→令和3年度2,867億円、約26%減) mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/iryouhoken13/dl/111116_01.pdf (2026年6月確認)
- 厚生労働省「令和4年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」(柔道整復の施術所は令和4年度末50,919か所で増加) mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/eisei/22/ (2026年6月確認)
- 厚生労働省「あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師及び柔道整復師等の広告に関するガイドライン」(令和7年2月。広告できる事項は柔道整復師法で限定列挙、効能・「専門」は不可、違反に罰則) mhlw.go.jp/content/10800000/001412682.pdf (2026年6月確認)
本記事は、自費メニューを始めるときの考え方をまとめたものです。料金や広告の細かな可否、骨盤矯正や機器の扱いは運用が変わることがあります。実際の判断は、厚生労働省の最新情報や所属団体にも確認してください。