たたむと決める前に、いったん止まる
体力や採算が続かなくなると、たたむことが頭に浮かびます。ただ、そこで「閉める」と決め切ってしまう前に、いったん止まります。閉めると、設備は処分の費用がかかり、患者は行き場をなくし、スタッフは職を失います。手元には、原状回復や残った借入の負担が残ることもあります。
そのうえで確かめたいのが、第三者へ譲るという道です。自分には重荷でも、これから開業したい人や、近くで院を広げたい人には、続けて使える資産に見えることがあります。たたむ・譲る・もう少し続ける、を並べて比べてから決めても遅くありません。順に確かめます。
設備・患者・スタッフ・立地に残る価値
譲るという道を考えるとき、最初に見るのは、自院に何が残っているかです。新たに開業する人が一から用意するものが、すでにそろっているなら、それは引き継ぐ側にとって時間とお金の節約になります。
たとえば、施術のベッドや機器、エコーなどの設備。通い続けてくれている患者と、その信頼。育ってきたスタッフ。駅や住宅地からの通いやすい立地と、その物件の条件。これらは、閉めれば消えてしまいますが、引き継げば次の院で生き続けます。いくらで評価されるか、そもそも引き継ぎ手がいるかは、相手と条件しだいで一概には言えません。だからこそ、自分だけで値踏みせず、次に挙げる窓口で確かめます。
まず相談する公的な窓口
譲渡や承継を考えると、まず仲介の会社を探したくなります。ただ、その前に相談できる公的な窓口があります。中小企業庁が各都道府県に置く、事業承継・引継ぎ支援センターです。相談は無料です。
このセンターでは、後継者がいない事業者と、引き継ぎたい人をつなぐ後継者人材バンクもあります。第三者への引き継ぎの進め方は、中小企業庁がまとめた中小M&Aガイドラインに沿って案内されます。まず無料の窓口で全体像と進め方を聞いてから、必要に応じて次の相手を考えると、見当がつかないまま話を進める失敗を避けられます。
廃業を選ぶ場合の手続き
比べたうえで、やはりたたむと決めることもあります。その場合も、ただ店を閉めれば終わりではなく、いくつかの届出が要ります。窓口は複数に分かれます。
廃止届(保健所)
施術所を閉じたら、廃止後10日以内に、施術所の所在地の都道府県知事へ廃止の届出を出します。窓口は保健所です。柔道整復師法では、開設だけでなく廃止のときも10日以内の届出が定められています。届出をしないままにすると、後で手続きが滞るもとになります。
受領委任の中止(地方厚生局)
療養費を受領委任で扱っていたなら、保健所への廃止届とは別に、地方厚生局への中止の手続きが要ります。開設のときに保健所と地方厚生局で窓口が分かれていたのと同じく、閉じるときも別々です。手続きの詳細は、地方厚生局や所属する団体にも確認します。
廃業届(税務署)
個人で開業していたなら、事業をやめたことを税務署へ届け出ます。青色申告をしていたなら取りやめの手続きや、閉じた年の所得についての確定申告も必要です。書式や期限は国税庁のサイトで確かめ、税の個別の判断は税理士や国税庁にも確認します。
スタッフと患者への配慮
たたむにしても、譲るにしても、忘れてはいけないのが、スタッフと患者です。スタッフには、いつどうなるかを早めに伝え、次の働き口や手続きに困らないよう配慮します。雇用の終わり方や手当の扱いには決まりがあり、後から問題になりやすいので、社会保険労務士に確認します。
患者には、いつまで通えるか、別の院をどう案内するか、預かっている情報をどう扱うかを、混乱が出ないように決めておきます。第三者へ譲る形なら、患者もスタッフもそのまま引き継げることがあり、これが譲渡を考える大きな理由にもなります。閉じる場合でも、最後まで通ってくれた人への案内を整えておくと、信頼を損なわずに区切りをつけられます。
先にやること/まだやらないこと
たたむことが頭をよぎったら、決め切る前に、順番に確かめます。
先にやる
- たたむ・譲る・もう少し続ける、を並べて比べる。閉めると即断しない。
- 第三者への承継・譲渡を、事業承継・引継ぎ支援センター(無料)にまず相談する。
- たたむと決めた場合は、廃止届(保健所・10日以内)、受領委任の中止(地方厚生局)、廃業届(税務署)の窓口と期限を一覧にする。
- スタッフへの伝え方と患者への案内を、早めに段取りする。
まだやらない
- 資金が尽きるまで抱え込んで、相談を先延ばしにすること。早いほど道が広く残ります。
- 仲介の会社をいきなり自分で探して、条件のよしあしが分からないまま話を進めること。
- 雇用の終わり方や税の判断を、自分の解釈だけで決めること。社労士・税理士に確認します。
たたむと決める前に、もう一つの道を確かめる。残っている価値を、無料の窓口で見てもらう。閉じるなら、届出と、スタッフ・患者への配慮を段取りする。どの道を選ぶにしても、追い込まれる前に動くほど、選べる幅は広く残ります。承継や廃業の個別の判断は、それぞれの窓口と専門家に確認してください。
よくある質問
出典
- 中小企業庁「事業承継・引継ぎ支援センター」(各都道府県・相談無料、後継者人材バンク)/中小M&Aガイドライン(第三者への引き継ぎの進め方) chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/index.html (2026年6月確認)
- 柔道整復師法(昭和45年法律第19号)第19条(施術所の届出=開設・変更・休止・廃止は10日以内に施術所所在地の都道府県知事へ届出) laws.e-gov.go.jp/law/345AC1000000019 (2026年6月確認)
- 国税庁「個人事業を廃業するとき」(廃業の届出・所得税の手続き) nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/42.htm (2026年6月確認)
本記事は、たたむ前に検討することを整理したものです。承継・譲渡や廃業の手続き、届出の期限・窓口、税・労務の要件は変わることがあります。実際の判断は、事業承継・引継ぎ支援センター、保健所、地方厚生局、税務署、税理士、社会保険労務士、所属する団体にも確認してください。譲渡で値がつくことや引き継ぎ手がいることを保証するものではありません。