辞める理由は、給料だけではない
スタッフに辞められると、給料が安いからだろうと考えがちです。たしかに給料も理由の一つです。ただ、給料を上げても次の人がまた辞めるなら、原因はそこだけではありません。給料の話に丸めてしまうと、本当の理由が見えなくなります。
辞める理由は、いくつかが重なって起きます。この院にいても数年後の自分が見えない。何を頑張れば評価されるのか分からない。長時間働いて休みも取りにくく、体が続かない。院長や同僚との関係がつらい。給料の不満も、この土台の上に乗っていることが多いです。だから、まず自分の院で、辞めた人や残っている人がどこに不満を持っているかを聞き取り、給料以外の理由を切り分けます。打ち手は、将来の見通し、評価、働き方、対話の四つに分けて考えます。順に見ます。
将来の見通しを、見える形で示す
とくに若いスタッフが辞める理由で大きいのが、先が見えないことです。毎日同じ施術を続けるなかで、数年後に自分がどうなっているかが描けないと、別の院や独立に目が向きます。給料が同じでも、進む道が見えるかどうかで残り方が変わります。
だから、この院で働き続けると何があるかを、見える形で示します。任せる施術の幅を段階で広げる、勉強会や研修の機会を用意する、将来は分院や独立まで含めて道を一緒に考える。こうした選択肢を、入って早い段階で本人と話します。院がどこまで用意できるかには限りがありますが、できることとできないことを正直に伝えるだけでも、先の不安は減ります。面談で本人の希望を聞いておくと、黙って辞める前に相談が来るようになります。
評価を、先に決めて伝える
頑張っても報われないという不満は、評価の基準があいまいなところから生まれます。何を見て給料や役割が決まるのかが分からず、院長の印象で決まっているように見えると、何を頑張ればいいのか迷い、やる気が下がります。
これを防ぐには、何を見て評価するのかを先に決めて、本人に伝えます。施術の件数、患者からの評判、後輩の指導、受付や院の運営への協力など、自分の院で見たい項目を選び、共有します。完璧な制度をいきなり作る必要はありません。まずは見ている項目を言葉にして、評価の場で本人と話すことから始めます。
労働時間と有給を整える 法令は社労士に
長く働かせて休みも取りにくい状態は、辞める理由として根が深いところです。体が続かなければ、将来の見通しや評価をいくら整えても残ってもらえません。働き方を整えることは、定着の前提になります。
ここは、雇う側の決まりが法令で定められています。働いた時間をきちんと記録すること、年5日の有給を取らせること、常時10人以上を雇うなら就業規則を作って届け出ること。労働時間の適正な把握や年次有給休暇の考え方は、厚生労働省の資料でも示されています。ただ、自分の院に当てはめた判断は、解釈を誤ると後で問題になります。シフトや勤怠をどう回すかは別の記事で扱いますが、法令にかかわる部分は自分で抱え込まず、社会保険労務士に確認するのが確かです。
人間関係と対話 辞める前に気づく
残りの一つが、人間関係です。院長との関係、スタッフ同士の関係がうまくいかないと、ほかの条件が整っていても辞めにつながります。そして人間関係の不満は、辞表が出るまで表に出てこないことが多く、気づいたときには手遅れになりがちです。
だから、辞める前に気づける場を作ります。月に一度でも、施術の合間でなく落ち着いて話す面談の時間を取る。困っていることや希望を聞き、言いっぱなしにせず次に何をするかをすり合わせる。この積み重ねが、不満が大きくなる前のサインに気づくことにつながります。対話は、将来の見通しや評価を伝える場でもあります。別々のことではなく、定期的に話す習慣の中でまとめて扱えます。
先にやること/まだやらないこと
定着の打ち手は、採用とセットで考えます。採用の段階で示したキャリアや評価、働き方を、入ってから実際に守る。これがそろうと、採っては辞められるの繰り返しが止まります。施術所の数が増えて採用が難しくなっているなかでは、辞められないことが、採り続けるより効いてきます。順番に確かめます。
先にやる
- 辞めた人と残っている人に、不満がどこにあるかを聞き取り、給料以外の理由を切り分ける。
- この院で数年後にどうなるか、進む道を本人と話し、できることとできないことを正直に伝える。
- 何を見て評価するかの項目を決め、本人に共有する。月に一度の面談の時間を取る。
- 労働時間の記録・年5日の有給・就業規則など、働き方の決まりを社会保険労務士に確認する。
まだやらない
- 理由を確かめないまま、給料を上げて解決したことにすること。
- 評価の制度を、完璧な形で一度に作り込もうとすること。まず基準を見える形にする。
- 労働時間や有給の扱いを、自分の解釈だけで進めること。社労士に確認する。
- 採用だけを急ぎ、入ってからの面談や評価を後回しにすること。採って終わりにしない。
辞めない院は、給料の一点でなく、将来・評価・働き方・対話の四つを少しずつ整えた先にできます。まず不満の在りかを聞き取り、進む道と評価の基準を見える形にし、働き方の法令は社労士に確認し、月一の対話でサインに気づく。採用とつなげて設計すれば、人の出入りが落ち着きます。給与や評価の具体、シフトと勤怠は、それぞれ関連記事で詳しく扱います。
よくある質問
出典
- 厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(使用者は労働者の労働時間を適正に把握する責務がある) mhlw.go.jp (2026年6月確認)
- 厚生労働省「年次有給休暇の時季指定義務」(年10日以上付与される労働者に、年5日は使用者が時季を指定して取得させる) mhlw.go.jp (2026年6月確認)
- 厚生労働省 衛生行政報告例(施術所数。柔道整復の施術所は約5万を超え増加傾向で、採用難・競争の背景になる) mhlw.go.jp/toukei/list/36-19.html (2026年6月確認)
本記事は、スタッフの定着の考え方を整理したものです。労働時間の適正な把握、年5日の有給、就業規則の作成・届出など、労働環境にかかわる要件は法令で定められており、自分の院への当てはめは変わることがあります。実際の判断は、社会保険労務士や労働基準監督署、厚生労働省の資料にも確認してください。給与・評価の具体的な設計は、本記事の範囲外です。