なぜ「自費です」と言い出せないのか
保険から自費へ言い出せないのは、それが「お金の話」に聞こえるからです。「治ったのに、まだお金を払って来させるのか」と思われるのが怖い。だから言い出せず、本来は対象外の施術まで、今まで通り保険のつもりで続けてしまう。ここには2つの問題が混ざっています。
1つは、言いにくさという気持ちの問題。もう1つは、保険で続けてよいのかという制度の問題です。この2つは、同じ答えで解けます。何を保険で診て、どこからが対象外かをはっきりさせれば、自費の案内は値段の交渉ではなく、事実の説明になります。
「切り替え」でなく「区切り」で考える
考え方を、「切り替え」から「区切り」に変えます。柔道整復の保険(療養費)の対象は、外傷性がはっきりした骨折・脱臼・打撲・捻挫などの、急なケガです。日常の肩こりや疲れ、慢性的な痛みは、もともと保険の対象ではありません。
つまり、急なケガが落ち着いた時点で、保険の対象には一つの区切りがつきます。その先の再発予防や体の維持は、保険の外の話です。これは値段の問題ではなく、制度の線引きです。区切りを事実として伝えれば、「お金を取るための切り替え」ではなくなります。
初回に見通しを渡しておく
区切りを自然に渡すこつは、最後ではなく初回にあります。施術の最初に、見通しを先に共有しておきます。「急なケガは、まず保険で診ます。痛みが落ち着いたあと、再発を防ぐ施術は保険の対象外なので、その時は自費でご案内します」と、はじめに一度言っておく。
先に言っておけば、区切りのときに「前にお話しした通り」で渡せます。何も言わずに来ていた患者へ、ある日いきなり「今日から自費です」と言うのが、いちばん角が立ちます。見通しは、最初の説明に一文足すだけです。
区切りでの声かけの型
区切りのときの声かけは、お金からではなく、体の状態から入ります。順番は3つです。
- 今の状態を伝える。「急な痛みは、落ち着いてきましたね」
- 次に必要なことを示す。「ここからは、再発を防ぐ施術に切り替える段階です」
- それが自費だと事実として添える。「この施術は保険の対象外なので、自費でのご案内になります。1回◯円です」
値段は最後に、事実として一度だけ言います。「どうしますか」と判断を急がせず、「続けるか、いったん様子を見るかは決めてください」と、選ぶ余地を残します。不安をあおって続けさせるやり方は、その場は通っても、信頼を失います。
保険と自費の、適正な線引き
説明のしかた以前に、線引きそのものを正しく保ちます。保険で診るべき急なケガを、自費に回してはいけません。逆に、保険の対象でない慢性の施術を保険で請求するのは不正請求で、受領委任の取扱い中止や罰則につながります。
自費は、保険の対象外の部分を受け止めるもので、保険の付け替えではありません。保険で診るものは保険で、対象外は自費で。この線引きを正しく保つことが、患者への説明を誠実にし、院を守ります。説明のなかで「治る」「必ず良くなる」と効能を断定しないことも、あわせて守ります。
今週やること
説明は、その場の言葉選びより、先の準備で決まります。初回の一文と、区切りの台本を用意します。
今週やる
- 初回の説明に、見通しの一文(急なケガは保険、その先の予防は自費)を足す。
- 区切りの声かけを、状態 → 次に必要なこと → 自費の事実、の3つの順で台本にする。
- 保険で続けている患者の中に、対象外を保険のつもりで続けている人がいないか点検する。
まだやらない
- お金の話から切り出すこと。体の状態から入る。
- 不安をあおって続けさせること。
- 「治る」と効能を断定した説明。
自費の案内は、売り込みではなく、次に必要なことを事実で伝える仕事です。線引きを正しく保ち、初回に見通しを渡しておけば、区切りの一言は重くなりません。最初の自費メニューを何にするかは、関連記事にまとめています。請求の適正は、所属団体の案内でも確認してください。
よくある質問
出典
- 厚生労働省「柔道整復師等の施術にかかる療養費の取扱いについて」(療養費の支給対象は外傷性の骨折・脱臼・打撲・捻挫等。慢性の肩こり・疲労等は対象外) mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/jyuudou/ (2026年6月確認)
- 厚生労働省「あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師及び柔道整復師等の広告に関するガイドライン」(令和7年2月。効能・効果や「専門」をうたう広告は不可) mhlw.go.jp/content/10800000/001412682.pdf (2026年6月確認)
療養費の対象や請求の取扱いは、運用や通知で変わることがあります。実際の請求の判断は、厚生労働省の最新情報や所属団体・保険者の案内でも確認してください。本記事は患者への説明のしかたをまとめたものです。